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　工場には「クリーンルーム」という設備を設けている所があります。しかし、クリーンルームが何のために設置されているのか知らないという人もいるでしょう。クリーンルームとは一定の条件を備えた特殊な環境で、電子機器や部品を製造する工場から食品を扱う工場まで、さまざまな業界で導入されている設備です。そこで、クリーンルームの定義や用途について説明します。

　そもそもクリーンルームとは、何のためにあるのでしょうか。ここではクリーンルームの定義や設置する目的、基本的な仕組みなどを紹介します。

目的
　クリーンルームの定義は「空気中に浮遊する微粒子や微生物が限定されたレベル以下の清浄度に管理されており、不純物やゴミを持ち込まないようにするための部屋」です。簡単にいうと、目に見えない細菌や、視認しにくい小さなホコリなどを取り除き、製品に付着するのを防止するために使用します。なお、微粒子とは極めて小さな粒子を意味する言葉で、その大きさは肉眼で確認できる限度の100分の1程度です。微粒子は一般的な空気調和設備のエアフィルタでは完全に取り除くことができません。そのため、クリーンルームは設計の段階で、細菌や微粒子を外部から取り入れず、内部でも発生させないための工夫がされているのです。

　たとえば、クリーンルームの外からゴミが入り込むことがないよう、室内の圧力を制御したり、気流の分布や風の向き、速さなどを調節したりできます。また、クリーンルーム内で作業を行う人が汗をかいて、製品に付着させることがないよう、温度や湿度を管理し、快適な状態を維持することも可能です。さらに、薬剤や清浄水を使用して室内の微粒子の濃度を調節する機能もあります。このように、クリーンルームは用途に応じて、温湿度や圧力、静電気、電磁波、振動、ガス成分などの環境条件を制御することができるのです。しかし、クリーンルームの環境を整え、維持するためにはそれなりの費用をかけなければいけません。ただし、清浄度や大きさによって、設置や維持にかかる費用は変わります。

基本の仕組み
　クリーンルームの環境を維持するには、異物を持ち込まない、発生させない、堆積させない、排除するという4つの原則を守る必要があります。まず、異物の持ち込みや発生を防ぐために、機器や材料は基本的に全て洗浄しなければいけません。人が出入りする際はエアシャワーを浴び、ゴミや細菌などを持ち込まないよう徹底します。

　さらに、異物が堆積しないよう、掃除がしやすい構造にすることも重要です。可能な限り凹凸を少なくして、ゴミが溜まらないよう環境を整えなければいけません。万が一、異物が入り込んだり発生したりしても排除できるよう、発塵部付近で排気を行う仕組みや、室内の気流を妨げないような構造が導入されています。空調設備や除塵設備だけではなく、それぞれの装置を制御するための設備も必要です。また、埃やゴミが静電気によって吸い寄せられることがないよう、除電をしたり、室圧制御をしたりするシステムも欠かせません。

クラス分け
　クリーンルームはJIS規格およびISO規格によって、空気清浄度ごとにクラス分けが行われています。清浄度はパーティカルカウンタという、空気中の粒子数を測定できる機器を使うことで把握が可能です。2001年11月以降はISO規格に統一されていますが、それ以前は1963年に制定された米国連邦規格が、清浄度規格の基本とされていました。清浄度クラスはクラス1からクラス9までの9段階に分けられており、清浄度は1立方メートルの空気中に含まれる0.1μm以上の粒子により決定します。たとえば、クラス1は粒径0.1μmの粒子数10、クラス2は粒径0.1μmの粒子数100です。

　清浄度はクラスが小さいほど性能が高く、設備費や維持費も高額になっていきます。そのため、作る製品や工程に適したクラスのクリーンルームを導入することが重要です。目安として、半導体を製造する工場など、徹底した塵埃管理が求められる現場では、クラス3～5のクリーンルームが適しています。電子部品や光学機械などの精密機器を製造する工場や、薬品や食品を取り扱う工場なら、クラス5～7程度のクリーンルームが必要です。印刷工場や自動車部品を製造・加工する工場なら、クラス7～8程度のクリーンルームで対応できます。

　クリーンルームには垂直一方向流や非一方向流など、いくつかの方式があります。方式は空気の清浄度にも大きく影響するため、設置する目的や取り扱う製品に合ったものを選ぶことが重要です。

垂直一方向流方式
　垂直一方向流方式とは、HEPAフィルタやULPAフィルタといった高性能フィルタを天井や壁に設置し、一定の方向に空気を流す方式です。ファンフィルタユニットから流された空気が一方向へ押し出されるようにして排出されるため、不純物の滞留や蓄積が起きにくく、高い清浄度を維持することができます。

　さらに、垂直一方向流方式には全面一方向流方式や一方向流方式など、システムによって違いがあるのも特徴です。なお、室内の清浄度はファンフィルタユニットの配置を変えたり、運転台数を増減したりすることで変更できます。垂直一方向流方式はクラス1～5程度のクリーンルームに採用されることが多い方式です。しかし、維持費も設備費も高く、移動や拡張が難しいというデメリットもあります。

乱流方式
　乱流方式は、非一方向流方式とも呼ばれる方式です。天井や壁の一部に高性能フィルタを設けるという点は垂直一方向流方式と共通していますが、乱流方式はダクトなどの排気口も同時に設置します。ファンフィルタユニットと排気口により空気を循環させることで、室内の塵埃を希釈し、一定の洗浄度を保つことができるという仕組みです。さらに、乱流方式にも、幅木吸込方式や室内直吹き方式などの細かい分類があるため、設置したい場所や予算に合わせて選択することできます。

　乱流方式は垂直一方向流方式よりも設置できる場所の自由度が高く、既存の施設にも比較的導入しやすいのがメリットです。一方で、気流が滞留しやすいため、塵埃が溜まったり、製品が汚染されたりするリスクが高いため、半導体を作る工場など、高い清浄度を求められる現場には向いていません。クラス3～7程度のクリーンルームに採用されることが多い構造です。

その他
　クリーンルームには垂直一方向流方式や乱流方式の他にも、水平層流方式やクリーントンネル方式、ハイブリット局所方式などの方式が存在します。水平層流方式は垂直一方向流方式のように一定の方向に空気が流れるのが特徴です。ただし、天井から床へ向かう方向ではなく、フィルタを設置した壁から反対の壁に向かって空気が吹き出します。フィルタ付近の清浄度はクラス5程度と高いものの、室内全体の清浄度はクラス7程度です。

　クリーントンネル方式は、半導体を製造する現場で使われることが多い方式です。クラス1～4程度の高い清浄度を維持することができます。ハイブリット局所方式とは、一方向流方式と乱流方式の両方を掛け合わせた方式です。クラス6程度の清浄度を維持できますが、室内全体に清浄な空気が流れるのではなく、一部のエリアのみ集中的に清浄します。

　クリーンルームは電子機器や自動車を作る工場から、食品や衣料品を製造する工場まで、あらゆる現場で利用されている設備です。ここからはクリーンルームの具体的な用途や分類について説明します。

クリーンルームの用途
　クリーンルームは空気中に浮遊する微粒子や微生物を取り除き、清浄な環境を整えるだけではなく、温度や湿度を管理するなどの機能も備わっています。特に、人や備品、材料などが多く出入りする工場などでは、徹底した管理を行わないと、目に見えないゴミや微生物などがすぐに増えてしまうでしょう。クリーンルームを設置すれば、微粒子や有害物質を効果的に取り除くことができるため、あらゆる分野で導入されています。

　たとえば、半導体や液晶ディスプレイ、自動車などを製造する工場では、不良品や欠陥品の発生を防ぐために、常に正常な空間を保たなければいけません。医療機器のように精密に製造しなければならない製品を取り扱う現場でも、クリーンルームが必要になります。また、食品の製造や加工を行う工場でも、虫や細菌といった異物の混入を防ぐために、クリーンルームを設置するケースが多いです。製品によっては、クリーンルームのかわりに、クリーンブースとして一部のスペースに設備を導入する場合もあります。

用途に合わせたクリーンルームの分類
　クリーンルームは大きく分けて、「工業用クリーンルーム」と「バイオクリーンルーム」の2種類に分類されます。工業用クリーンルームとは、自動車や電子機器などの製品や部品を製造する現場で使われるクリーンルームです。電子製品は微細な塵埃が残っているだけでも異常をきたすおそれがあるため、高性能フィルタによりホコリや微粒子を捕集したり、静電気などを除去したりする必要があります。さらに、塵埃だけではなく、製品に影響を及ぼす有害物質を取り除くのも、工業用クリーンルームの重要な役割です。

　一方、バイオクリーンルームは食品や医薬品などを製造する現場で使われます。バイオクリーンルームは主に異物混入を防ぐために使われます。菓子類や調理食品などを製造する食品工場で万が一、異物混入が発覚した場合、会社の信用は大きく損なわれてしまいます。さらに、生産停止や製品の回収なども避けられず、多大な損害を被るでしょう。作業員に徹底した衛生教育を行うことで、ある程度の事故を防ぐことは可能です。しかし、目に見えない微生物や微粒子まで防ぐのは難しいでしょう。バイオクリーンルームは浮遊微生物をカットし、食品の衛生面を保つため必要です。

　さらに、医療機器を製造する現場や生物研究を行う施設でも、衛生面が重視されることから、バイオクリーンルームが導入される場合があります。バイオクリーンルームでは塵埃に限らず、細菌やウイルスなどの細菌も対象にしているため、殺菌・酵素HEPAフィルタという微生物を死滅させる作用のあるフィルタを使用しているため、医療の現場でも重宝されているのです。

　どれだけ高性能なクリーンルームを設置しても、出入りする人が空気中の浮遊物を持ち込んだり、ゴミやホコリを発生させる原因を作ったりしては意味がありません。清浄な環境を維持するためにも、クリーンルームで働くためには、しっかりとマナーを守る必要があります。まず、クリーンルームに入るときは、基本的には私服ではなく、クリーンウェアを身につけましょう。クリーンウェアは無塵衣とも呼ばれ、ホコリが出ないよう特殊な布や縫製により作られている衣服です。着用する際は、可能な限り隙間ができないように気を付けます。

　また、クリーンルームではせきやくしゃみをしてはいけません。体調管理には十分に気を配り、せきやくしゃみが出るときはクリーンルームへ立ち入るのは控えましょう。なお、化粧品や整髪料の使用も厳禁です。作業中は無駄な動きを極力省き、塵埃が発生しやすい備品や材料は持ち込まないようにする必要があります。他にも、現場によって独自のルールが設けられている場合があるので、作業をする前に必ず決まりを確認しておきましょう。

　クリーンルームは特殊な環境ということもあり、クリーンルーム内での作業が必要な仕事は、給料の水準が高めに設定されている場合があります。24時間体制でクリーンルームを稼働している工場も少なくありません。ただし、夜勤が必要な場合は生活リズムが乱れやすくなるので、健康管理には十分に注意しましょう。たとえば、半導体の製造工場は、クリーンルームでの検査作業があります。専用の顕微鏡を使い、人間の目では見えないような異常がないかをチェックするのが主な仕事内容です。

　作業はマシンオペレーターのように、決められた手順に沿って行います。集中力と責任感が求められる仕事なので、寝不足や体調不良で見落としをすることがないように注意しなければいけません。作業に慣れるまでは工場と相談して昼勤だけで働き、体調に気を配る余裕ができたタイミングで夜勤を始めるというのも一つの方法です。

　工場のクリーンルームは、清浄な環境を保ち、製品の欠損を防ぐために必要不可欠な設備です。クリーンルームで働く際は、特徴を理解したうえで、マナーやルールを守る必要があります。クリーンルームのある工場で働いてみたいという人は、「クロップ」で求人を探してみましょう。「クロップ」ならweb応募が可能なので、気になる求人があれば手軽に応募できます。